はじめに
くも膜下出血の治療を終えて退院されたあと、「思うように体が動かない」「立つとふらつく」「長く歩けない」と感じる方は少なくありません。命に関わる大きな病気を乗り越えた後だからこそ、ここからは「体をどう動かし、どう取り戻していくか」が、生活の質を決める大きなテーマになります。
この記事では、くも膜下出血後に起こりやすい運動機能の変化と、自宅で身体機能を取り戻していくためのリハビリの考え方を、理学療法士の立場で具体的に解説します。
くも膜下出血後に起こりやすい「運動機能の変化」
くも膜下出血は出血した場所や治療経過によって症状が異なりますが、運動機能の面では次のような変化が現れやすくなります。
① 片麻痺・筋力低下
出血や治療の影響で、体の片側が動かしにくくなったり、全身の筋力が落ちたりすることがあります。さらに、入院中の安静期間が長かった場合は、病気そのものとは別に「使わなかったことによる筋力低下(廃用性筋萎縮)」が重なります。
② 運動失調(ふらつき・協調運動の障害)
小脳や脳幹が影響を受けた場合や、後述の水頭症が関わる場合、運動失調(うんどうしっちょう)と呼ばれる症状が出ることがあります。手足の力はあるのに、動きがぎこちない・狙ったところに手が届かない・歩くとふらつく、といった「動きのコントロール」の問題です。筋力トレーニングだけでなく、協調性を高める運動が必要になります。
③ バランス能力の低下
立っているとき・歩いているときに体を支える力(バランス能力)が落ちると、転倒のリスクが大きく上がります。退院後の早い時期の転倒は、骨折や再入院につながりやすく、もっとも避けたいリスクです。
④ 持久力(体力)の低下
入院期間が長いほど、心臓や肺の働き・全身の持久力が落ちます。「少し動いただけで疲れる」「家事の途中で座り込む」といった状態は、筋力とは別に持久力が落ちているサインです。
運動機能を取り戻す「4つのアプローチ」
① 筋力:下肢を中心に、生活に直結する筋肉から
歩く・立つ・座るを支える下肢の筋力が土台です。自宅では次のような運動から無理なく始められます。
- 椅子からの立ち座り:1日10回×2セット程度から。太もも・お尻の筋肉を使う
- かかと上げ:壁や椅子に手を添えて、ふくらはぎを鍛える
- 座った状態での太もも上げ:片脚ずつゆっくり持ち上げる
② バランス:支えのある状態から段階的に
転倒予防の柱です。最初は壁や椅子に手をついた状態で、片足立ち(5〜10秒)やつま先立ちから始めます。慣れてきたら支えを減らし、左右への重心移動や、その場での足踏みなど、難易度を少しずつ上げていきます。必ず支えのある安全な場所で行うのが原則です。
③ 協調運動:運動失調がある方に
ふらつきや動きのぎこちなさがある場合は、力をつけるより「正確に・なめらかに動かす」練習が役立ちます。ゆっくりとした動作で目標に手を伸ばす、足で床に描いた線をなぞる、といった協調性を高める運動を、理学療法士と一緒に組み立てていきます。
④ 持久力:短い活動を「こまめに」積み重ねる
体力は、一度に長く頑張るより、短い活動をこまめに繰り返すほうが、無理なく戻していけます。家の中を少し歩く、洗濯物を干す、といった日常動作の回数を増やすことから始め、徐々に連続して動ける時間を伸ばしていきます。
運動の「強度」と「進め方」の目安
強度はBorgスケールで「11〜13」
運動中の主観的なきつさを表す「Borgスケール」では、11〜13(「楽である」〜「ややきつい」)程度を上限にすると安全です。会話ができる範囲で、軽く息が弾むくらいが目安です。「翌日に強い疲れが残る」場合は、やりすぎのサインなので量を減らします。
段階的に運動量を増やす(オーバーワークは避ける)
くも膜下出血後はとくに、急に運動量を増やすと体調を崩しやすいため、「先週より少しだけ」というペースで段階的に増やすのが原則です。「もっとできそう」と感じても一気に上げず、数日〜1週間ごとに少しずつ負荷を足していくほうが、結果的に早く・安全に体力が戻ります。
起立性低血圧に注意
くも膜下出血後は、立ち上がった直後に血圧が下がってふらつく「起立性低血圧」が起こることがあります。寝た姿勢・座った姿勢から立ち上がるときは、一度止まってから、ゆっくりを徹底します。急に立つ運動は避け、段階的に姿勢を変えていきます。
「正常圧水頭症」による運動機能の低下に注意
くも膜下出血の後、数週間〜数か月してから、脳脊髄液の流れが滞る「正常圧水頭症」が起こることがあります。これは運動機能に直接影響する重要な合併症で、次の3つの症状(三徴)が特徴です。
- 歩行障害:すり足・小刻み・足が開き気味になる・方向転換でふらつく
- 認知機能の低下:もの忘れ・反応の鈍さ
- 尿失禁
とくに「リハビリを続けているのに、歩き方が急に悪くなった」「すり足が増えた」といった変化は、水頭症のサインの可能性があります。手術で改善が期待できる場合もあるため、運動機能の低下を「病気のせい」と決めつけず、必ず主治医にご相談ください。
(補足)目に見えにくい変化もあります
運動機能とは別に、くも膜下出血の後では、疲れやすさ・集中の続きにくさ・もの忘れといった変化が出ることもあります。運動を進めるなかで「以前より疲れやすい」と感じたら、それも回復経過の一部です。無理に運動量を保とうとせず、その日の体調に合わせて調整しましょう。気になる場合は医療機関にご相談ください。
Avensでできるサポート
Avensは、理学療法士が運営する自費訪問リハビリサービスです。ご自宅へお伺いし、くも膜下出血後の運動機能の回復を、生活の場で支えるサポートを行っています。
- 筋力・バランス・協調運動・持久力を、状態に合わせて組み立てた運動プログラム
- Borgスケールを目安にした、安全な運動強度の設定と段階的な負荷調整
- 運動失調(ふらつき)に対する協調性運動
- 起立性低血圧に配慮した、立ち上がり・歩行の練習
- 歩行の変化(水頭症のサイン)の早期発見と主治医への連携
- ご家族への介助方法・転倒予防のアドバイス
「立つとふらつく」「思うように歩けない」「どんな運動をどれくらいやってよいか分からない」というご相談を歓迎しています。
注意点:くも膜下出血後に見落としたくないサイン
次のような症状が出たら、無理をせず、救急要請(119)または医療機関へご相談ください。
- 突然の強い頭痛・「これまでにない頭痛」(再破裂の可能性。最重要シグナル)
- めまい・吐き気・嘔吐
- 新しい麻痺・しびれ・ろれつの異常(FAST:Face/Arm/Speech/Time)
- 歩き方が急に悪くなった・すり足や尿失禁が出てきた(正常圧水頭症の可能性)
- 立ち上がり時の強いめまい・意識が遠のく感じ(起立性低血圧)
- 主治医から運動制限を指示されている場合
とくに「これまでにない頭痛」と「歩行の急な悪化」は、くも膜下出血後に重要な警告サインです。運動の自己判断より、まず安全が優先です。
まとめ・相談案内
くも膜下出血後のリハビリは、筋力・バランス・協調運動・持久力という運動機能を、段階的に取り戻していくことが中心になります。Borgスケールを目安に無理のない強度で、オーバーワークを避けながら少しずつ運動量を増やすこと、そして歩行の変化(水頭症のサイン)を見逃さないことが、安全に体を取り戻す鍵です。
Avensでは、くも膜下出血後の運動機能の回復について、ご自宅での具体的なリハビリのご相談を受け付けています。LINEから気軽にメッセージをお送りください。
執筆
最終更新:2026年6月3日
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療を行うものではありません。症状には個人差があり、痛み・急な変化・強い不安がある場合は、医師や医療機関にご相談ください。