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はじめに
「手術は無事に終わったけれど、家に帰ってからどう過ごせばいいのか不安」――大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ)の手術を受けた方やご家族から、退院を前にこうしたご相談をよくいただきます。この骨折は、受けた手術の種類によって、自宅での動き方や気をつけることが変わるのが大きな特徴です。とくに「やってはいけない姿勢」を知らないまま生活すると、思わぬトラブルにつながることもあります。
この記事では、大腿骨近位部骨折のあと、自宅生活で大切なことを、手術の種類別の注意点と生活の工夫を中心に、理学療法士の立場で解説します。とくに術後に「やってはいけない動き(禁忌肢位)」を中心にお伝えします。なお、歩行や立ち座りを取り戻す自宅リハビリの進め方・回復の流れ全般については、大腿骨骨折後、どのくらいで動ける?自宅リハビリの進め方で詳しく解説しています。
大腿骨近位部骨折とは
大腿骨近位部骨折は、太ももの付け根(股関節に近い部分)の骨折で、骨がもろくなった高齢の方が転倒して起こることが多い骨折です。大きく次の2つに分けられ、多くの場合に手術が行われます。
- 大腿骨頸部骨折(けいぶこっせつ):股関節の関節内に近い部分の骨折
- 大腿骨転子部骨折(てんしぶこっせつ):その少し外側の部分の骨折
どちらの骨折かによって選ばれる手術が異なり、その後のリハビリや生活の注意点も変わってきます。
受けた手術によって、生活の注意点が変わります
まず、ご自身(ご家族)がどの手術を受けたのかを確認しておくことが、自宅生活の第一歩です。
① 人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ)
主に頸部骨折で行われることが多く、傷んだ骨頭を人工のものに置き換える手術です。手術のアプローチ(切る方向)によっては、関節が外れる「脱臼(だっきゅう)」を防ぐために避けたい姿勢があります(後述の禁忌肢位)。ここが生活でいちばん大切なポイントになります。
② 骨接合術(こつせつごうじゅつ)
主に転子部骨折(大腿骨転子部骨折)で行われることが多く、金属(髄内釘やスクリューなど)で骨を固定する手術です。こちらは、どのくらい体重をかけてよいか(荷重制限)が手術や骨の状態によって異なり、主治医の指示に沿って段階的に進めることが大切です。転子部骨折で骨接合術を受けた場合、人工骨頭置換のような脱臼を防ぐ禁忌肢位は基本的に問題になりにくいとされますが、動きの制限は骨折や手術の状態によって異なります。禁忌肢位や荷重制限の指示は、必ず主治医・担当の理学療法士に確認してください。
【早見】やってよい動き/避けたい動き(術式で異なります)
⚠️ 人工骨頭置換術の方が避けたい動き(脱臼予防)
- 股関節を深く曲げる(しゃがみ込み・前かがみ・低い椅子)
- 脚を内側へ閉じる・交差させる(脚を組む・横座り)
- つま先を内側へねじる
✅ 骨接合術の方がまず守ること
- 許可された範囲の荷重(体重のかけ方)を守る
- 急なひねり・方向転換、転倒を避ける
※どちらの術式でも、守る内容と期間は手術・骨の状態で異なります。必ず主治医・担当の理学療法士の指示を優先してください。
【人工骨頭置換後】避けたい「禁忌肢位」と生活の工夫
人工骨頭置換術(とくに後方からのアプローチ)のあとは、次の3つの動きが組み合わさると脱臼が起こりやすいとされ、避けるよう指導されることが一般的です。必ず主治医・担当の理学療法士の指示を確認してください。
- 股関節を深く曲げる(おじぎ・しゃがみ込み・低い椅子に深く座る)
- 脚を内側へ閉じる・交差させる(脚を組む・横座り)
- つま先を内側へねじる
これらを避けるための、具体的な生活の工夫です。
- 椅子・ベッド・トイレは高めに:股関節が深く曲がらない高さにする(低いソファ・和式トイレは避ける)
- 前かがみを道具で回避:床の物を拾う「リーチャー(マジックハンド)」、靴下を履く「ソックスエイド」、長い柄の靴べらを使う
- 寝るときは脚の間にクッションを入れ、脚が内側に入らないようにする(医師の指示に従う)
- 横向きで寝る・起き上がる向きも指示を確認する
体重はいつからかけてよい?荷重制限の進み方(骨接合術の方へ)
骨接合術(主に転子部骨折で行われる手術)では、脱臼を防ぐ禁忌肢位よりも、「どのくらい体重をかけてよいか(荷重制限)」を守ることが生活の中心になります。荷重は一般に次のような段階で広げていきますが、どの段階にいつ進むかは骨のつき具合によって大きく変わります。必ず主治医の指示に従ってください(自己判断で早く体重をかけると、再骨折や固定部のゆるみにつながることがあります)。
| 段階 | 意味 | 移動・歩行の例 |
|---|---|---|
| 免荷(めんか) | 手術した脚に体重をかけない | 車椅子・平行棒内での練習が中心 |
| 部分荷重 | 許可された分だけ体重をかける | 歩行器・松葉杖で一部荷重の歩行 |
| 全荷重 | 体重をすべてかけてよい | 歩行器→杖→自立歩行へ段階的に |
人工骨頭置換術の方は、荷重よりも脱臼を防ぐ禁忌肢位(前の章)が生活の中心になります。どちらの術式でも時期には個人差があります。歩行や立ち座りを取り戻していく自宅リハビリの進め方は、大腿骨骨折後、どのくらいで動ける?自宅リハビリの進め方で詳しく解説しています。
自宅でできる運動の例(医師の許可が出てから)
以下は、医師から運動・荷重の許可が出たあとを想定した例です。禁忌肢位・荷重制限の範囲を必ず守り、痛みの出ない範囲で行ってください。
- 大腿四頭筋セッティング:脚を伸ばして座り、膝の下のタオルを押すように太もも前に力を入れて5秒(10回)。関節を大きく動かさず行えます。
- 足首の運動・かかと上げ:血流を保ち、歩く力の土台をつくる。
- お尻横の筋肉(中殿筋)の運動:あおむけや立位(支えあり)で、脚を外側へ開く動き。歩行の安定に重要です。
- 椅子からの立ち座り:高めの椅子で、手すりや机に手を添えて安全に。
- 歩行練習:歩行器から杖へと、許可された範囲で段階的に。
運動中に股関節の強い痛みが出たら中止し、医師・専門家に相談してください。
自宅環境の工夫と転倒・再骨折の予防
一度この骨折を起こすと、骨粗鬆症が背景にある場合、反対側など次の骨折のリスクも高まります。再転倒を防ぐ環境づくりが大切です。
- 立ち座りする場所(トイレ・ベッド・玄関)に手すりを設置する
- 段差の解消・滑り止め・夜間の足元の照明
- 動線にある電気コード・敷物の端など、つまずきの原因を片付ける
- 福祉用具(歩行器・杖・シャワーチェア・補高便座など)を活用する
- 骨粗鬆症の検査・治療を主治医と続ける
再び骨折しないために|骨を守る栄養と骨粗鬆症ケア
この骨折の背景には骨粗鬆症があることが多く、反対側などの次の骨折を防ぐには、環境づくりに加えて「骨を守る生活」も大切とされています。
- たんぱく質(肉・魚・卵・大豆製品・乳製品)を毎食少しずつ。筋肉を保ち、転びにくい体づくりの土台になります。
- カルシウムとビタミンD(乳製品・小魚・きのこ・日光浴など)は骨の健康に関わるとされています。
- 骨粗鬆症の検査・治療は主治医と続ける。服薬の内容や中断は必ず医師に相談してください。
- 過度な飲酒・喫煙は骨に影響するとされ、見直しが望まれます。
栄養や服薬は体の状態によって適切な内容が異なります。くわしくは主治医やかかりつけの医療機関にご相談ください。下肢の筋力・バランスを保つ運動とあわせて、高齢期の筋力低下の予防もご参照ください。
禁忌肢位はいつまで守ればいい?期間の目安
禁忌肢位を守る期間には個人差があり、受けた手術(人工骨頭置換術か骨接合術か)と回復の状況によって異なります。とくに人工骨頭・人工股関節では、関節が安定するまでの時期は脱臼のリスクが高く、注意が必要とされています。骨接合術の場合は、骨のつき具合を見ながら段階的に動きを広げていきます。いずれもいつまで守るか・どこまで動かしてよいかは、必ず主治医の指示に従ってください。自己判断で早く動かすと、脱臼や再骨折につながることがあります。
| 受けた手術 | 守る内容の中心 | 期間の考え方(目安) |
|---|---|---|
| 人工骨頭置換術 | 脱臼を防ぐ禁忌肢位 | 関節が安定するまでの時期はとくに注意とされます。一般には術後しばらく(数週間〜数か月)を目安に指導されることが多いですが、期間は主治医が判断します |
| 骨接合術 | 荷重制限 | 骨のつき具合を見ながら段階的に広げます。期間は骨折・手術の状態で異なり、主治医が判断します |
上の期間はあくまで一般的な考え方で、個人差が大きいものです。「いつまで守るか・どこまで動かしてよいか」は、必ず主治医・担当の理学療法士の指示に従ってください。判断に迷うときや不安があるときは、自己判断で進めず相談しながら進めましょう。はじめての相談から訪問開始までの流れはこちら、費用の考え方は自費リハビリの料金は高い?費用と価値の考え方でご案内しています。
生活の場面別:入浴・靴下・車の運転・寝るときの注意
日常の何気ない動作に、禁忌肢位(深く曲げる・内側にねじる・脚を閉じて交差する)が隠れています。場面ごとの工夫で、無理なく避けられます(個人差があります。進め方は主治医の指示を優先してください)。
- 入浴:浴槽をまたぐとき股関節を深く曲げすぎない。シャワーチェア・手すり・すべり止めを使い、低い姿勢を避ける。
- 靴下・爪切り:前かがみで足に手を伸ばすと股関節が深く曲がる。ソックスエイド(自助具)や、脚を組まずに横から手を回す工夫を。
- 車の乗り降り・運転:低い座席は股関節が深く曲がりやすい。クッションで座面を高くし、体ごと向きを変えて乗り降り。運転再開の時期は主治医と相談を。
- 寝るとき:横向きでは脚が内側に入りやすい。両脚の間にクッションをはさみ、脚を閉じて交差させない。
Avensでできるサポート
Avensは、理学療法士が運営する自費訪問リハビリサービスです。ご自宅へお伺いし、大腿骨近位部骨折のあとの生活の立て直しを、実際の生活の場で支えるサポートを行っています。
- 受けた手術(人工骨頭置換/骨接合)を踏まえた、安全な動き方・禁忌肢位の確認
- 大腿四頭筋・中殿筋など、歩行を支える筋力づくり
- 立ち上がり・歩行(歩行器→杖)など、生活動作の段階的な練習
- 椅子・ベッド・トイレの高さ、手すり・福祉用具など住環境の調整提案
- ご家族への介助方法・転倒予防のアドバイス
「禁忌肢位が不安」「どこまで動いてよいか分からない」「また転ばないか心配」というご相談を歓迎しています。実際の生活の場で動作を確認できるのが、訪問リハビリの強みです。
注意点:見落としたくないサイン
次のような変化があるときは、すぐに医師・医療機関にご相談ください。
- 股関節の急な強い痛みで動かせない/脚が短く見える・外側にねじれている(人工関節の脱臼が疑われ、早急な受診が必要です)
- 手術部位の腫れ・赤み・熱感・発熱(感染のサイン)
- 医師から指示された荷重制限・禁忌肢位を守れているか不安なとき
- 痛みを我慢して無理に動いてしまう
- 転倒した・転びかけが増えた
自己判断で進めず、迷ったときは主治医や担当の専門家に相談しながら進めましょう。運動は必ず許可の範囲・安全な環境で行ってください。
まとめ・相談案内
大腿骨近位部骨折のあとの自宅生活では、まず受けた手術の種類を確認し、人工骨頭置換なら禁忌肢位、骨接合なら荷重制限を守ること、そして椅子やトイレの高さ・手すり・福祉用具で生活動作を工夫することが、安心して回復を進める鍵になります。あわせて大腿四頭筋・中殿筋を保ち、再転倒を防ぐ環境づくりも大切です。
Avensでは、手術内容・お身体の状態・ご自宅の環境に合わせた、大腿骨近位部骨折後のリハビリのご相談を受け付けています。LINEから気軽にメッセージをお送りください。
初回の訪問・体験は無料です(ご相談・お問い合わせももちろん無料)。ご本人・ご家族どちらからでも、相談だけでも大丈夫です。理学療法士が直接お返事します。
禁忌肢位について|よくある疑問に短く回答
骨接合術後の禁忌肢位とは?
骨接合術(主に転子部骨折で行われる手術)では、人工骨頭置換のような脱臼を防ぐための禁忌肢位は、基本的に問題になりにくいとされます。守るべきは主に荷重制限で、指示は主治医に確認してください。
大腿骨頸部骨折で避けるべき動きは?
人工骨頭置換術を受けた場合、脱臼を防ぐため次の動きを避けるよう指導されるのが一般的です(手術のアプローチにより異なります)。
- 股関節を深く曲げる(低い椅子・しゃがみ込み・前かがみ)
- 脚を内側へ閉じる・交差させる(脚を組む・横座り)
- つま先を内側へねじる
大腿骨転子部骨折でも禁忌肢位に気をつけますか?
転子部骨折の骨接合術では脱臼の禁忌肢位は問題になりにくいとされますが、動きの制限は骨折や手術の状態によって異なります。自己判断せず、必ず主治医・担当の理学療法士に確認してください。
よくある質問
Q. 大腿骨近位部骨折の後、歩けるようになりますか?
A. 手術後の早い時期からリハビリを始めることが多いですが、経過には個人差があります。主治医の荷重の許可に従い、段階的に立つ・歩く練習を進めます。
Q. 自宅でリハビリは続けられますか?
A. はい。立ち座り・歩行・下肢の筋力づくりなど自宅でできることは多くあります。手すりや福祉用具を活用し、安全に続けることが大切です。
Q. 反対側の骨折を防ぐにはどうすればいいですか?
A. 骨粗鬆症の治療、転倒しにくい住環境、下肢の筋力・バランスを保つ運動が予防の柱です。気になる症状は医療機関にご相談ください。
Q. 転子部骨折でも「禁忌肢位」に気をつける必要はありますか?
A. 禁忌肢位(脱臼を防ぐために避ける姿勢)が主に問題になるのは、人工骨頭置換術を受けた場合です。転子部骨折で骨接合術を受けた場合は、脱臼の禁忌肢位は基本的に問題になりにくいとされますが、荷重制限など守るべき指示は骨折や手術の状態によって異なります。自己判断せず、必ず主治医・担当の理学療法士に確認してください。
執筆
最終更新:2026年10月18日
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療を行うものではありません。症状には個人差があり、痛み・急な変化・強い不安がある場合は、医師や医療機関にご相談ください。